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2022年08月10日

第2回目の「POLO」での研修報告

この夏、昨年に続き「森師(もりし)」研修員は、奈良県東吉野村の「POLO BCS社」にお世話になり、3泊4日の研修を行いました。

このたびは吉賀町の岩本一巳町長にもご同行いただきました。今回主に学んだのは、以下の5点です。

・「ウルトラザウルス」を用いたウィンチ集材

・「壊れない道づくり」

・木材利用、加工

・奈良県東吉野村と吉賀町幸地の森の違い

・吉野林業の成熟期の森林の管理手法

「ウルトラザウルス」を用いたウィンチ集材

昨年度の森師研修員は、主に「作業道づくり」や既存道の整備を行いましたが、今年度夏季以降より「長伐期の森づくり」を目指すべく、選木、利用間伐を開始します。そのためには、新たに導入した5.8トンの重機「ウルトラザウルス」を存分に活用する必要があります。

このたびの研修では2日間の時間をかけ、「ウルトラザウルス」によるウィンチ集材の手法と、それに関する手信号やトランシーバーによる意思伝達、作業における安全管理の心がけ、機械のメンテナンスなどについて、「POLO BCS社」の管理する山で、数十本の間伐作業と選木を行わせていただく中で実地に学ばせていただきました。

壊れない道づくり

現在、島根県吉賀町の幸地町有林で作業道づくりを行っておりますが、作業道は繰り返しの使用や経年に耐えるものでなければなりません。そのため、実際に長年利用されている道がどのようなものかを見ることが、何よりの勉強になります。

こちらが「POLO」の道です。

幸地との違いとして、まず木組みの周辺に経年による緑化が見られ、植物の根付きが道を頑丈にし、使用する上での安心感をもたらします。奈良はシカの食害によって下層植生が育ちにくい地域ですので、幸地においてはより早く緑化が進むものと思われます。

経年による劣化の進行具合も含め、自分自身が今つくっている道の5年後、10年後の姿を想像しながら、現在の「道づくり」を行う中での心配りをしていく必要を感じました。

また整頓された道まわりの様子は、集材作業の速度や安全性の向上に直接つながりますので、今後心がけていきたいと感じました。

そして何より東吉野村は「中央構造線」上の破砕帯にあり、急傾斜かつ雨量も多い地域。このような地にあっても存分に機能する「壊れない道」の確かさ、そしてその道をつくる作業者の方々の熟練ぶりを、あらためて感じさせられました。

木材利用・加工

「POLO BCS社」のサテライトオフィス「おおかみ舎」では、できるだけ一本の木を余さず活用する、という「POLO」の理念を実現するための、製材、ものづくりのスペースとなっています。

このたびは最終日の午前の一部の時間で、薪割り機、製材機を用いた角材づくり、アロマ精製などの指導をいただきました。

 

奈良と幸地の森の違い

奈良県においてはシカの生息数が多いことによる食害の影響のため、林内でも下層植生はシカの食べない種のみ(マツカゼソウ、アセビ、コアジサイ、ヒカゲノカズラなど)が部分的に繁茂している状態でした。これではスギやヒノキの天然更新は期待できません。

マツカゼソウ

 

ヒカゲノカズラ

 

こういった状況と比較するに、吉賀町幸地での山菜や広葉樹も多く育つ下層植生の豊かさ、スギやヒノキの天然更新など、〝貴重な環境を活かす“森づくりをする必要があると、あらためて再認識しました。

吉野林業の成熟期の森林の管理手法

今の段階の幸地においては、40~50年生のスギ・ヒノキが主体の森となっています。これは森林においては「若齢期」にあたり、今後は高密度に張り巡らした作業道を活かしながら、80~100年生以上となる、「成熟期」に至る森の管理を目指していくことになります。

幸地の若齢期の森の様子

 

「若齢期の森」は、立木数が多く、樹冠が閉鎖しているのに対し、「成熟期の森」とは、都度の間伐・択伐を繰り返したのち樹冠に空間がある状態となっています。このような森では、日光が多く入り、下層の木々の成長が見込まれますが、その際には、「次にどのような森(目標林型)へ移行させていくのか」といった視点が欠かせません。

東吉野 成熟期に至りつつある森の様子

 

今の幸地には、多くの天然の広葉樹があります。それらの育成も行いながら〝針広混交林“を目指していくにしても、スギ・ヒノキの天然更新を促し、針葉樹主体の森づくりをしていくにしても、「複層林施業」にならざるを得ません。長伐期の森の管理をする上では、今までのように年齢・樹高の揃った森を間伐していく形で管理することとはまた別種の発想・知見・技術が必要となります。

森の生産性、環境性の両面に配慮しながら適宜の抜き伐り、手入れを行っていく「複層林・択伐林施業」を満足に行える人材は、現在この高津川流域には不足しているように思われます。いま我々は京都大学名誉教授の竹内典之先生にアドバイザーをお願いしておりますが、今後は、我々が〝自律した管理主体“となっていくために、多くの課題と向き合えるだけの学びを、これからも得続けていく必要があると思っております。

幸地が目指す50年後の成熟期の森

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