リレーエッセイ

箱は、人を幸せにはしなかった

隈研吾(建築家)

 今までの建築の歴史は、一言でまとめれば、ハコを作る建築であった。ハコをより大きく、より高くするという歴史であった。その行きついた先が20世紀の超高層ビルという「大きく、高い」ハコである。ハコに詰め込まれて働くことが、効率的であるとされ、エリートの証であるとされ、大きなハコは世界中を覆いつくした。  このハコのシステムがいかに人間を不幸にしてきたかを、コロナ禍が教えてくれた。そして、ハコの外でも、充分に効率的に仕事ができ、ハコの内側に閉じ込められて、空間も時間も管理される以上に、幸福に暮らせることに、われわれはついに気が付いたのである。  その意味でコロナ禍とは、ひとつの歴史の折り返し点であるように僕は感じる。環境問題も地球温暖化も、今まで、ある意味で「ヒトゴト」であり、自分の問題ではなかった。  しかし、今回、環境問題とは、自分の生命を直…続きを読む

柿木村で生きてまーす!<1>

円山洋輔(ケンモリ事務局)

はじめまして。「日本に健全な森をつくり直す委員会」の事務局員として、2019年3月 に人口150万人の神戸から、人口6000人の島根県吉賀町柿木村(合併する前は 柿木村)に移住をした円山洋輔と申します。都会に住む同世代の若者たちへ向けて田舎生 活の魅力を発信し、環境省の「“森里川海”の思想」を広めようと奮闘中です。 せっかくなので、僕が奮闘している様子を皆さんにもお伝えしたくて、エッセイを始める ことにしました。 第一回目は、僕の大学生時代から、運命を左右する事にもなった当「委員会」の事務局長 である天野礼子氏と出会うまでの話です。 1. 「環境問題」から「日本文化」へ 僕は現在25歳で、3年前までは近畿大学総合社会学部に通い「地球環境・まちづくり」 を専攻していました。入学した動機は、いま思うと少し偏った見方をしていたなと思うの ですが、…続きを読む

人口減少と災害

藻谷浩介(㈱日本総合研究所調査部主席研究員)

 昨年(2019年)秋の台風19号は、信濃川、阿武隈川、荒川、多摩川など多くの大河川で氾濫を引き起こした。ケンモリ委員会の天野事務局長に「何をいまさら」と言われるのは覚悟で書くが、筆者はそこで改めて、「ダムでは洪水は防げない」という事実を痛感したのである。  世間では、筆者と全く逆のことを考えた人も多かったようだ。「群馬県の八ッ場(やんば)ダムのおかげで、利根川沿いでは浸水が起きなかった」という話が、ネットで広まったくらいなので。確かに八ッ場ダムは、たまたま完成直後で空に近い状態だったため、一気に8千万トン近い水を貯めることができた。だがそれは利根川水系の多数の支流の一つである吾妻川の上流での話で、利根川の本流や、その他の多くの大支流から流れ込む圧倒的に量の多い水が食い止められたわけではない。下流で浸水被害の出なかったのは、栃木・群馬・埼玉…続きを読む

何故に「世界の林道」(「全国林業普及協会」2018年9月15日刊) を出版したのか

酒井秀夫(東京大学大学名誉教授・森林利用学)

 この本を出版することになった直接の契機は、日本林道協会(山田壽夫専務理事)の3か年にわたる調査事業に協力したことですが、海外出張などで今まで聞き留めてきた林道や林業などのメモも加えて1巻としました。  そもそも「林道技術」は、国によって変わるものではありません。地形、傾斜、土質、通行車両、交通量、設計速度が決まれば、形は大体同じになるはずです。しかし、「森林、林道は誰のもの」、「林業とはそもそも何か」、「国有林の役割は」、などということになると、その国の歴史や文化、経済、社会に大きく左右されます。  北欧は、森林を開発していく過程で、補助金に頼らず、事業体や集落が林道を自力で開設してきました。林道の割合が国の道路網の中でも大きな割合を占めています。いま、戦後まもなくから開設してきた道路の改良をすすめて、大形車両の通行、大量輸送を可能なよう…続きを読む

何故に「人口減少社会の未来学」を編集したのか

内田 樹(思想家・神戸女学院大学名誉教授)

 この本を編著で出すことになったきっかけは、人口減問題についてあまりに議論が足りないと感じたからです。人口減は天変地異ではありません。日本の人口がこれからどう推移するかはわかっています。国が出している長期予測では、総人口は2065年に中位推計で8800万人。現在の1億2700万人が47年で3900万人減るのです。年間83万人の人口減です。高齢化率も上がる。  けれども、それについて広範な議論を行い、採るべき政策について国民的合意をとりつけ、できる政策から実行してゆくという「当たり前のこと」が行われていません。  先日、毎日新聞が人口減を主題にした座談会を企画しました。そこで各界の人たちが集まって出した結論は「人口減は既定の事実と受け止めて、対処法をどうするか考えたらいい」「人口減に対応する社会システムを作る必要がある」というものでした。そん…続きを読む