リレーエッセイ

人口減少と災害

藻谷浩介(㈱日本総合研究所調査部主席研究員)

 昨年(2019年)秋の台風19号は、信濃川、阿武隈川、荒川、多摩川など多くの大河川で氾濫を引き起こした。ケンモリ委員会の天野事務局長に「何をいまさら」と言われるのは覚悟で書くが、筆者はそこで改めて、「ダムでは洪水は防げない」という事実を痛感したのである。  世間では、筆者と全く逆のことを考えた人も多かったようだ。「群馬県の八ッ場(やんば)ダムのおかげで、利根川沿いでは浸水が起きなかった」という話が、ネットで広まったくらいなので。確かに八ッ場ダムは、たまたま完成直後で空に近い状態だったため、一気に8千万トン近い水を貯めることができた。だがそれは利根川水系の多数の支流の一つである吾妻川の上流での話で、利根川の本流や、その他の多くの大支流から流れ込む圧倒的に量の多い水が食い止められたわけではない。下流で浸水被害の出なかったのは、栃木・群馬・埼玉…続きを読む