幸地町有林について
我々「吉賀町」森師研修員が日頃作業を行っている現場が、島根県鹿足郡吉賀町「六日市(むいかいち)IC」のすぐ近く、吉賀町幸地(こうじ)地区にある「幸地町有林」。
およそ50年生のスギとヒノキによって構成される針葉樹の人工林ですが、いま日本全国に散在する、長く適切な管理がされてこなかった「暗く、荒れた森」とは違い、近年は定期的にきちんと間伐がなされてきたために、林内のほとんどの場所は適度に明るく、年輪幅の揃った良質な木々が育つ、「健全な森」です。
吉賀町にはシカの生息数が少ないということもあり、食害もなく、タラノキやコシアブラなどの山菜類や、サカキ、クロモジ、ユズリハなど多くの種類の広葉樹の下草が生えた、気持ちの良い緑の空間です。
この幸地町有林は、森師研修員が作業をする初の現場であるとともに、吉賀町に“大橋式作業道”がつけられた初めての森でもあります。
急傾斜地であったため、架線を張った形などで行う皆伐(ある範囲のすべての木を伐採すること)が主だったこの地域に今までになかった、「山林管理」、「林内路網の敷設のあり方」を、町内の方々に知っていただくための〝モデル林”となることを目指しています。
上の画像からもわかるように、作業道を通す場所の木は伐採するため、上空から見るとそこだけ抜けて見えます。
樹冠が閉塞した暗い森でしたら、こうした隙間(ギャップ)から日光が入り込み、木のさらなる成長や、下層植生による緑化が促されることで、大雨や強風などの災害にも強い森になるきっかけとなります。
我々が目指す「森づくり」
我々が目指しているのは、毎年の木の成長量に応じた分のみの伐採を行う、「法正林」と呼ばれる長伐期の施業です。
そのために繰り返し木を運び出し続けても使用に耐える、頑丈な「壊れない作業道」をつくっています。
それと並行し、長い時間をかけて良い森となっていくように行うのが、「間伐」です。
樹高の高低は、それが植わっている土壌の質によって決まりますが、木の太さは周辺木との間隔(密度)によって決まります。
この密度を管理をしていくために、どの木を伐り、どの木を残すのかの「選木」を行い、伐ったものを材として利用することを「利用間伐」といいます。
(ちなみに土壌の質は「地位」といい、日本では1~5までの指標がありますが、毎年の成長量のデータから見て、「幸地の森」は、最良の「1」に値するのではないかと考えられます。)
新たな専用重機「ウルトラザウルス」も導入し、今年度から積極的に利用間伐を行っていく上で、まず私たちがすることは、“永代木(エリートツリー)”と呼ばれる、素性の良い優良木を定めることです。
そしてその永代木の周囲にあり、成長の阻害となっている木を優先的に間伐の対象としていきます。
「どれを伐るか」、ではなく、「どれを残すか」、をまず最初に考えるわけです。そして従来は40~50年生のものを適齢と定めて伐採を行うところを、さらに80年も100年もかけて立派な大径木に育てていきます。
幸地ではいたるところに貴重なヒノキの天然更新も見られるので、うまく行けば、半永続的な森づくりが可能かもしれません。
いずれにせよ、本当に気の遠くなるようなスケールの仕事です。
毎年のプロット調査(ある区画の木の胸高直径を測ること)によって採取したデータをもとに、「どの程度の間伐を行えばいいか」が、上のようにグラフで表示されます。
こうしたプランニング→調査→実行を、森づくりのプロフェッショナルである竹内典之先生(京都大学名誉教授)の監修のもと行っています。
しかしデータで出るとはいっても、間伐は一律にこれくらいすればいい、というものでもないようです。
たとえばひょろ長い木(形状比という指標で測ります)などは、風や雪などの「気象害」に遭いやすいため、太らせたいからといって間伐を多くして間隔をあけすぎてしまうと、倒れたり、病気になってしまう恐れがあります。
長期にわたって森を管理していく上で、難しいことももちろんたくさんあるというわけです。
以上、駆け足で説明しましたが、間伐や選木はとても奥が深く、また木は一本一本どれも異なっているので(枝張りや曲がり、病気、周囲との樹冠のバランスなど)書いていけばキリがありません。
特に幸地は良い木が多いので、選ぶのがとても難しい作業になります。ですが、これからの長い期間にわたる森づくりの根幹となるものと考えると、「大きな仕事だなあ」、とも感じます。
いずれにせよ、適度に明るく、また良い木がたくさん並ぶ森は、とても気持ちの良い場所です。
その森に作業道をつけることで、木材搬出用のダンプが走るのみならず、人間も歩きやすくなるわけですので、「林業を行うため」だけでなく、町民たちが気軽に遊びに来て、自然に触れたり、「森林管理」について学んだりできる場所になってほしいとも考えています。(先日は、高校生たちが授業で見学に来てくれました。)
幸地の森で見られるもの
これはウラジロという名のシダ。葉の裏が白いので「ウラジロ」です。
お正月の注連縄の飾りなどにも使われる縁起物ですが、乾燥したヒノキの適地に生えるといいます。
こういった「植生」の様子を見ることは、森づくりのみならず、作業道をつける際にも、水がどれだけ通る場所かを見たりする上で重要になります。
スギは水分を好み、ヒノキは(比較的)乾燥を好むので、水の多く通るスギの適地にヒノキが生えていると「漏脂病」と呼ばれる病気にかかることがあり、木の一部がへこんだり、ふくらんだりします。
自然の情報量の多さ、つながりの複雑さには、いつも驚かされます。