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2021年08月03日

自然に調和する道「大橋式作業道」を学びに、東吉野村の「ポロ・ビーシーエス」社へ

森林を大切に育てるアパレル会社、「ポロ・ビーシーエス」社へ

私たち森師研修員の作業のメインとなるのは、吉賀町内の森に入り、そこに「大橋式作業道」と呼ばれる小規模な林業用の作業道をつけていくことです。吉賀町の森で実際に始めてみて1、2ヶ月ほどが経ち、おぼろげながらもイメージができるようになったとともに、自然を相手にする難しさも痛感させられる日々。ここであらためて作業道の本場を見に行こうと、奈良県東吉野村の「ポロ・ビーシーエス」社森林部に2泊3日の研修へ行ってきました。我々の頼れる指導者であり、粋な杣人、「ポロ・ビーシーエス」森林部吉野営業所所長の山中正さんに加え、先日もオンライン講義をしていただいた京都大学名誉教授の竹内典之先生も現場にご参加くださり、作業道が張り巡らせてある山の様子を実際に見て回らせていただきました。

ところで、私は趣味の登山をする際に、いつも感じることがあります。それは、自然に関する自分の知識のあまりの乏しさ。せめて植物や樹木の名前くらいわかればいいのですが、結局小さなものへと目を向けることもないまま通り過ぎるばかりなのが、いつも何かもったいないことのように思えていました。

その点、山中さんや竹内先生とご一緒していて驚かされるのが、その自然を見つめる目の大変な解像度の高さ。道中、あれこれと投げかけるこちらの些細な質問に答えていただきながら、“森師(もりし)”のあるべき姿を体現されておられるようなお二人に近づくためには、今後自分はどうしたらいいのか?とずっと考えていました。

そのようにお二人と歩く山々は、基本的にはポロ社が所有する「社有林」になります。アパレルを本業としながらも、先代から受け継いだ森林事業にも力を入れているということで、とても珍しい会社だなと思っていたのですが、古くから森と付き合い、大事に守ってきた奈良という土地柄や、そこに生きる人々の気風がそうさせるのかなと、実際に現地の空気に触れることで納得がいくような思いでした。

昔「ポロ・ビーシーエス」社は、メリヤスの肌着をつくる作業を東吉野村の女性たちにやってもらい、その家族が生きている山も、一緒に守ってきたと聞きました。

そうした意識の有りようは、今は、作業を行う山とは別に設けられた工房「POLOの森 おおかみ舎」の方にもよく表れていて、きれいに積み上げられたたくさんの薪や、自製のアロマ蒸留機、様々な木工品などが並ぶ開放的でおしゃれな木の空間は、森と共に暮らしていくことの豊かさ、心地よさが、一つの理想の形として結実されているようでした。

「これからの日本の林業が目指すべき方向」へと、軽やかに先行していっているようにも思える素敵な会社でした。

開放的な木の工房「おおかみ舎」。
設計や建設も、ほとんどすべてポロスタッフの皆さんの手で行われたそうです。

「大橋式作業道」とは

あらためてここで、「大橋式作業道」とは何か、ということについて簡単に説明をしたいと思います。

「大橋式作業道」とは、1929年生まれの大阪の林業家・大橋慶三郎さんの手によって1960年代頃に形を成した、森林施業のための作業道のことです。2.5mの道幅、140cmの法面、39度の勾配……など、厳密な理論を基に組み上げられたその道は、小さいながらも強度は抜群で、その後の歳月の中で幾多もの災害をくぐり抜けていることから、「壊れない作業道」とも呼ばれています。

その大橋さんを師として仰ぐ林業家の方々が集うことで、「道づくり」はその後さらに洗練、日本各地に普及されていきました。その流れの中に、我々森師研修員もいるというわけです。

「壊れない」ことと並び、「大橋式作業道」の最大の特長を表すもう一つの言葉が、「自然との調和」。

開設後、道の随所にある補強のための丸太組みや、周囲の表土の中から自然と緑が現れ、経年により道そのものが味わい深さを増していくように思えるその姿はまさに「調和」そのもので、まるでその道が最初からそこにあったかのように感じられるほど。山と一体となっているからこそ、「壊れない道」になっているのだということがよくわかりました。

 

山を切り拓いてつくったとは思えない、安定感ある作業道。
高見山への登山客が登山道と間違えて通っていくこともあるようです。

奈良林業発祥の地で見た、280年生のスギ巨木群

研修最終日には、奈良林業発祥の地、川上村へ。同志社大学の創設や、明治神宮の森を創った本多静六博士が師事したことでも知られる、明治の大林業家・土倉庄三郎の出生地でもあります。

我々が向かったのは、大橋さんのお弟子さんの筆頭であり、17代に渡って山林経営をされている岡橋清元さんが管理する「岡橋山」。ふもとには、大橋さんを称える碑が建てられていました。

山に張り巡らされた、幾多もの芸術的なヘアピンカーブの連続を登っていった先に広がっていたのは、280年生のスギの巨木がゆったりと立ち並ぶ壮大な景観。宮崎駿の世界観を彷彿とさせる、厳かさと心地よさが同居する不思議な空間でした。どの木もあまりに巨大なので、人が近くに立たねばそのスケールの大きさが伝わらないほど。人が木の足元に立つと、まるでミニチュアになったかのようで笑ってしまいました。(この森の写真は掲載できません。)

そしてそんな木々の壮大さとは別に、もうひとつ印象に残ったことがあります。それは、そのスギの巨木群に隣接する、もうひとつのスギの森の対照的な姿。どれも巨木とはとうてい言いがたい、ひょろひょろとしたスギばかりがぎっしりと並ぶそちらの森は、他の方が所有・管理する森だということでした。

同じ土壌を共有していても、適切な間伐と、長い年月の経過により、これほどに圧倒的な林相の違いが生まれる。幾世代も越えて確かに継がれてきた森づくりの様を目の当たりにした時の気持ちは、うまく言葉に表すことはできません。

吉賀町での日々の作業の中でも感じることですが、見れば見るほど、知れば知るほど、「木は無言のうちに多くのことを語っている」ことがわかってくるようです。

これからも、いろいろな森を歩いていきたいと思います。

 


年輪の詰まったスギの木の切り株。
落雷によりダメージを受けたため伐倒したそうですが、このような巨木を切れる人が減っていると聞きました。

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