2021年春より始動
皆さんはじめまして。
島根県西部、清流・高津川源流の吉賀町にて”森師研修員”として活動を始めた石田達彦と申します。
“森師研修員”とは、今年度(2021年度)より同町にて始動した総務省予算の「地域おこし協力隊プログラム」の名称で、実際に森に入って間伐や搬出をしたり、それらの作業のための「道づけ」などを行いながら、将来的には、地域の森林資源を有効に活用することのできる、森林に関する豊かな知識・技能を有した人材”森師”となることを、3年間の活動の目標にするものです。
森林環境譲与税の施行、各地で度重なる様々な災害、また世界的な環境意識の高まりなどの流れを受け、「地域おこし協力隊」として森林作業員の募集をしている自治体は数多くありますが、中でも養老孟司先生が委員会を代表されている「日本に健全な森をつくり直す委員会」(ニックネーム“ケンモリ” )とも連携を続けてきた吉賀町のこの「協力隊プログラム」は、持続可能な森づくりのあり方を真剣に考え、実現していくために、担当者の斎藤慎吾さんが長年をかけて準備してきた、綿密かつ柔軟なものになっています。
とはいえ、今年から始まったばかりのこの取り組み。なんとか届くべきところに届かせていきたい。私がそう考えていたところ、大変ありがたいことに「委員会」のHPでエッセイを連載させていただくことになりました。ここ吉賀町で考えること、見えるもの、とにかく面白そうだからやってみた、ということなどについて、これから一ヶ月に一度ほどのペースで、いろいろ書いていけたらと思います。ぜひ読んでください。
自己紹介と、私が吉賀町を選んだ理由
私は1988年に広島県に生まれ、早稲田大学文学部に進学、関心の強かった映画・文学・音楽等のアート分野への理解を深めるため、翻訳家の都甲幸治先生や哲学者の東浩紀先生らのもと、アメリカ文学や批評理論について学びました。その後は広島に戻り、広告制作会社でライターなどの仕事をしていました。
休日には海外旅や登山をしていましたので、地元の広島市紙屋町のモンベルのお店にはよく通っていたのですが、昨年春に吉賀町の「地域おこし協力隊」説明会の告知を目にしました。主催団体である『日本に健全な森を作り直す委員会』(ケンモリ)は、かねてより著作に親しんでいた養老孟司先生が代表をされていると知り、またモンベルを会場に説明会が行われることも異例に思えて、興味を持ち、参加してみることにしました。
「ケンモリ」の事務局長である天野礼子さん、中国地方を舞台に「里山資本主義」という言葉を世に広められた藻谷浩介さんも登壇されたその8月25日の説明会は、吉賀町内はもちろん、「ケンモリ」など外部の識者の方々とも連携しながら、科学的、合理的に、未来の森づくりについて考えている誠実な姿勢が伝わってきました。また、そこで説明された「自伐型林業」「長伐期施業」「二拠点居住」などのワードを通じて、かねてより自分の中にあった、自然の中で暮らし、働きたい、という願望を、実現可能なものとしてイメージすることができました。
まったく未経験の分野ではありましたが、『モンベル』『養老孟司』という、かねてより大きな信頼を寄せていた2つの名前に強く背中を押されるように感じましたし、また近い時期に森づくりに生涯をかけておられたこの「委員会」の副委員長のC.W.ニコルさんの訃報が届いていたこと、コロナ禍であらためていろいろなことを再考するタイミングであったことなど、様々な状況が重なり、「これからの生き方として、街とは異なったもうひとつのフィールドを持つことは、何はともあれ意義のあることに違いない」と、早々に志願を決めたのでした。
吉賀での日々、そしてこれからのこと
そして2021年4月より着任した後は、さっそくチェーンソーを抱えて木を切ったり、幾種もの大型機を運転できる重機免許を取得するなど、今までのオフィスワークとはまったく異なる暮らしに多少翻弄されつつも、そのこと自体を楽しむような日々です。
とはいえ、「地域おこし協力隊」は月16日のほぼ週4日勤務。基本的にこちらでの暮らしは、ごくのんびりとしたものです。非勤務日にどのように過ごすかも自由なので、副業をしたり、農業や狩猟に取り組んだり、新たな資格を取得したり、町を往き来したり、ネットで何かを発信したり、またはシンプルに自然の中でゆっくり過ごしたりと、いかようにも生活を設計することができます。そんな吉賀町の“森師研修員”、これからの数年、毎年3名ずつ募集がされていく計画となっているようです。
先日、吉賀町の「森林管理のプランニング」にも携わっていただいており、私たち“森師研修員”にとっては理論的支柱とも言える竹内典之先生に第一回目の講義をZoomでしていただいたのですが、その中ではこれからの吉賀町の森づくりにまつわる、遠大なプランの一端も明かされました。何せ森林面積が97%という土地なので、やるべきことはたくさんあります。そしてそんな「森づくり」を実現していくためにまず必要なのは、やはり人。
これから私たちが考えていくことになる「森林資源の活用」とは、とても幅広い解釈ができるものと思われます。また、「持続可能な森づくり」、とは、“森づくり”をする私たち自身が持続可能である生活づくり、を並行して行っていくことでもあります。そのため、年齢・性別・経験を問わず、様々な考え、観点を持った方々と協働していくことが必要になってくると、個人的には思っています。
もし「森師研修員」という働き方に興味を持った方がおられたら、見知らぬ土地での暮らしや体力面の不安など、様々な懸念があるかとは思いますが、吉賀町役場産業課林業班の担当方が親身にフォローしてくださいますので、ぜひ吉賀町柿木庁舎までお問い合わせいただけたらと思います。また、何かこちらと「協働してやってみたいこと」がある、などのご要望などについても、どうぞお気軽にお声がけいただけたらと思います。お待ちしています!
と、エッセイの初回は森師研修員の取り組みの始まった吉賀町の紹介をさせていただきました。
私たちが目指す森づくりの形、働き方、などの具体的な話について、また次回以降にしていきたいと思います。