この本を出版することになった直接の契機は、日本林道協会(山田壽夫専務理事)の3か年にわたる調査事業に協力したことですが、海外出張などで今まで聞き留めてきた林道や林業などのメモも加えて1巻としました。
そもそも「林道技術」は、国によって変わるものではありません。地形、傾斜、土質、通行車両、交通量、設計速度が決まれば、形は大体同じになるはずです。しかし、「森林、林道は誰のもの」、「林業とはそもそも何か」、「国有林の役割は」、などということになると、その国の歴史や文化、経済、社会に大きく左右されます。
北欧は、森林を開発していく過程で、補助金に頼らず、事業体や集落が林道を自力で開設してきました。林道の割合が国の道路網の中でも大きな割合を占めています。いま、戦後まもなくから開設してきた道路の改良をすすめて、大形車両の通行、大量輸送を可能なようにしています。
森林を開拓時に浪費して農地化した米国では、広大な国土に膨大な道路網があり、林道は地方道の役割を担っていますが、老朽化した道路網の維持管理が大きな負担となっています。しかし、自主独立精神が染みついている米国では、補助金をもらうのは恥、「赤ん坊」とさえ言い切ります。林道や機械に投資し、林業を産業として自立化させようとしています。
地方自治が発達している欧州は、林業の他にも農業や畜産業、観光、レクリエーションを総合化して、林道は森林や山間地の中の道路という位置づけです。 林道は密度的にはすでに整備され、いまその道路網の維持管理費の捻出、費用負担に、住民と行政が知恵を出しあっています。
材価が安く、他産業の人件費の高い世界的な状況下で、どこの先進国も林業は苦戦していますが、作業を合理化し、中間経費を省き、林業従事者(事業体)と森林所有者に利益を還元しています。根底で共通しているのは、安全作業の徹底と、林業に従事していることの誇りです。「気候変動」の影響が顕在化した現在、森林、林業の役割は大きなものとなっていますが、森林整備や自然災害の復旧に林道は不可欠です。世界の林道を概観することで、日本の林道の座標軸を定めることが本書の大きな目標ではありますが、補助金がなければ何もしない、したくないという林業関係者が多い日本で、林道を通じて世界の林業関係者の心意気を感じとっていただければと思い書きました。
2018年10月01日