この本を編著で出すことになったきっかけは、人口減問題についてあまりに議論が足りないと感じたからです。人口減は天変地異ではありません。日本の人口がこれからどう推移するかはわかっています。国が出している長期予測では、総人口は2065年に中位推計で8800万人。現在の1億2700万人が47年で3900万人減るのです。年間83万人の人口減です。高齢化率も上がる。
けれども、それについて広範な議論を行い、採るべき政策について国民的合意をとりつけ、できる政策から実行してゆくという「当たり前のこと」が行われていません。
先日、毎日新聞が人口減を主題にした座談会を企画しました。そこで各界の人たちが集まって出した結論は「人口減は既定の事実と受け止めて、対処法をどうするか考えたらいい」「人口減に対応する社会システムを作る必要がある」というものでした。そんな結論なら専門家を集めなくても、僕でも言えるよと思いました。
さらに驚いたのは参加者の一人(福田康夫元首相)が「国家の行く末を総合的に考える中心がいない」と言ったことでした。人口減に対して対応策を起案する責任を持つ部署が存在しないのです。そういう部署が存在しないことについての危機感も今の政権からは全く感じられない。「人口減については考えないようにする」というのがどうやら現代日本のひそかな合意事項のようでした。ですから、僕のような門外漢のところに編著の依頼が来るというような椿事が起きるわけです。
人口減と高齢化(そしてAIの導入による雇用喪失)はあと20年30年以内に日本の社会システムをほぼ全面的に書き換えることを要求します。地方自治はどうなるのか、行政サービスはどうなるのか、人口減で限界集落化する地方の生活圏での交通網や通信網やライフラインはどうやって維持するのか。過疎地での教育・医療・警察・消防はどうなるのか。農業や林業はどうなるのか。疑問は無数にありますけれど、どれについても、何のプランも語られていません。
五輪や万博の誘致、カジノ開設、リニア新幹線など、提言されているのは「起死回生の大バクチ」のような打ち上げ花火的な政策だけです。金さえ回れば人口減もきっと何とかなる。だから、今は金の話だけしよう。そういうことで国民的合意ができているようです。「金がなくなったらどうする」かについては、さらに考えたくも話したくもないらしい。この国の未来は暗いです。
2018年09月03日