ニコルさんを紹介してくださったのは、私の文章の師の開高健さんでした。
私はまだ26歳(今は66歳)でした。
34歳の時(1988年)に、師と一緒に「長良川河口堰反対運動」を、国会へむけて作りました。
「“パンダ作戦”や。反対運動は、一人一人でやっても建設省河川局へは勝てへん。そやけど、上野動物園にパンダを見に来る人の数を見ろ。俺が“弟”と思っとるニコルや、立松和平や、夢枕獏や、カヌーイストの野田知佑を“パンダ”にして、多くの人々を長良川に集めるんや」と、おっしゃった。
毎年一万人以上のカヌーイストが長良川へ、河口堰の工事現地に集まったのだ。
モンベルの辰野勇さんや、俳優の近藤正臣さん、歌手の南こうせつさんも。
しかし、師は、1989年12月に、58歳で亡くなられた。
89年の春に、私は脳の発作(私には「脳動静脈奇形」という持病がある)で長良川の講演会場で倒れた。「俺はもうガンで行けへんようになっていたから、替わりに行ってもらっていたが、びっくりしたやろ。彼女には、脳に“100万人に一人の難病”があるのにやってる。俺はもうアカンと思う。そやから、俺が死んだら、長良川と天野を守ってくれ」と、開高さんに言われたのだよと、後にニコルさんから聞きました。
それからは、ニコルさんが私の“兄”となってくれたのです。
どの反対運動現地にも来てくれたのだ。
長良川河口堰は造られて“運用”されたが、社会党は「その代りに、“河川法”を100年ぶりに改正した」と、言った。
「君らは、身は切られたが、マンモス建設省の膝の骨は折ったんだよ」と、
五十嵐敬喜さんや、ニコルさんらには言われた。
2004年には、ある議員らが「林野庁を廃庁する政策」をつくり、ニコルさんを“船頭”にしようとしていた。
私は、ニコルさんにお願いした。「河川局と12年もやって、官僚とは二度と戦争はしたくない。彼らも心はしんどかったと思うからです。林野庁を壊したとしても、そこで働いている官僚の方々は、環境庁(当時は。今は環境省。)に入れられて、“小さな声”でしか喋れなくなるでしょう。それでは“森のためには良くない”と私は考えるのです。
1980年代には、林野庁が知床や白神のブナ林の原生林を伐ってお金にしようというので国民運動が大きな反対となっていた。それで日本では、子どもまでが「木は伐っちゃだめ」となって、伐らなければならない人工林まで“手入れ”をしなかった。
ニコルさんが黒姫で再生しようとしている森も、そこですよね。
私はニコルさんに教えてもらって2000年にカナダに行って、
“サケが森をつくっている”ことがわかった。今後は林野庁官僚を応援することにします。ニコルさんも一緒にやってくれませんか。昨年の2003年には京都大学で
“森里海連環学”が、森の学者と海の学者でつくられました。
これを応援しながら、林野庁も応援したいのです」、と。
2005年には、養老孟司先生と一緒に、「森里海連環学」を広めるため、高知の仁淀川に行き始め、同時に島根県西部の高津川にも行きました。2005年秋に高津川へ行ったのは、ニコルさんと、京都大学で「森里海連環学」を作られた学者の竹内典之先生と、私でした。
島根県柿木村の「ふれあい会館」で、ニコルさんの講演をやってもらいました。
その後、養老先生から連絡があり、「何かを一緒にやろう」とおっしゃったので、
「日本に健全な森をつくり直す委員会」を、ニコルさんにも入ってもらい、つくったのです。
これまで私は、「ニック」と言えませんでした。あまりにも“尊敬”していたからでしょう。
ニコルさんは、最初は“妹”と言ってくれていましたが、「林野庁を壊さないで」と言った頃からは、
“お姉ちゃん”と言ってこられるようになりました。
各国で官僚もされていた男(ひと)が、12歳下もの女の言葉で、自分の行動を変える
「勇気!」これこそが、ニコルさんがお好きだった日本の本物の「武士道」なのだと、
私は思っておりました。この男(ひと)が“大好き”でした。
彼が、私を“お姉ちゃん”と言い始めたのは、すでに彼には、恐いが優しい、
たくさんの本を書かせた「森田いずみ」という秘書が、“妹”としていたからでしょう。
私達は“家族(ファミリー)”だったのだ。
ある夜、黒姫で彼はこう言った。
「私たち“ファミリー”は、開高健と、養老孟司という、“20世紀の巨匠”を兄にしたんだよね」、と。
私は心の中で、「ニコルさん、あなたも英国人とし、日本人になってくれた“巨匠”の一人ですよ」、と。
ニコルさんとは、こんな「つきあい」があって、
「日本に健全な森をつくり直す委員会」の副委員長をずっと続けてもらっていたのでした。
「ありがとう、ニコルさん!」。
天国で、開高健先生が、「待ってたでー」と、嬉しがっていると思いますよ。合掌。
皆さん。養老先生の「C.Wニコルさんに捧ぐ。」や、この文章を見てくださった方は、
御自身もこのHPで、天国のニコルさんへメッセージを書いてみませんか?